2024年8月13日
簡単なご略歴をご記載ください
三重県出身です。1996年に三重大学を卒業し、縁もゆかりもない市立札幌病院で研修。1999年、北海道大学第三内科(現、消化器内科)に入局し、市立稚内病院勤務を経て、北海道大学大学院に入学、2005年に大学院を卒業し、4月より北見赤十字病院に勤務しています。2009年に部長、2022年に副院長、患者支援センター長として現在に至ります。総合内科専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、指導医です。
質問:北見赤十字病院ではいつ頃から医師の働き方改革に取り組まれてきましたか、またそうしようと思ったきっかけがあれば教えてください。
大学院を卒業し医師10年目で北見赤十字病院に赴任しました。部長と私(副部長)、4年目の医師2名での勤務でした。赴任した4月時点では、当科は内科の一部門でしたが、内科の他の先生から消化器疾患の診療依頼が我々に殺到したため、同年12月に内科から消化器科として独立しました。勤務は過酷で、この時点ですでに週末当番制は導入しており、以後、医師間の、今でいう「タスクシェア」に取り組まざるをえませんでした。
7年ほど前に、内視鏡検査関連で医療安全上の問題が起きました。原因分析をすると、業務が属人化して、忙しい若手医師の勤務状況を周囲が十分把握できておらず、サポートできていないことで事故につながっていました。業務スケジュール管理ができておらず、周囲に助けを呼べる体制、周囲が気づける体制ができていませんでした。管理者として本当に申し訳ないと考え、以後、課題解決に向けて継続的に取り組んでいるところです。
質問:働き方改革やタスクシェアをするうえで、院内で障壁になったことがありましたら教えてください。
2005年当時は、休みの日は仮に北見に主治医がいても病院には来ない、何があっても当番医師がすべて対応する、ということが病棟や患者さんに理解されづらかったです。でもすぐに慣れてもらいました。院内で障壁になったわけではありませんが、業務を他職種にお願いする場合には、必要性を理解してもらうための正論が必要なのと、業務整理をしてからお願いすることが重要と考えています。例えば、学会のJED登録ですが、当院はTYPE 1で情報を集めています。問診には看護師はじめ関連部門の協力が必要ですが、当科の現第二部長が副部長時代に業務整理を行った上で看護部はじめ関連部門に粘り強く説明し、多職種が協力して情報収集する体制を構築してくれました。
質問:北見赤十字病院ではLINE WORKSを導入されていますが、そのメリットやデメリットがありましたら教えてください。
先ほどお話した7年ほど前に、スケジュール把握とヘルプが呼べる体制づくりが必要と考えました。当時はフリーのスケジュール管理アプリを使用しましたが、うまくいきませんでした。2019年6月に病院管理部門と診療部長にスマートフォンとLINE WORKSが配られました。2020年2月以降のCOVID対応でLINE WORKSが有効だったので、病院に依願し2020年秋から当科医師にもスマートフォンとLINEWORKSを試験的に支給してもらいました。外来・病棟・内視鏡センター・地域連携係とで使用開始しました。最大のメリットは、使い方が簡単であることです。手元で資料やスケジュール把握ができますし、一斉連絡が可能です。その他、様々な使い方、発展性があります。デメリットは、24時間いつでも一斉に通知ができてしまうことです。利用者、特に管理者は節度を持って使用しなければなりません。当科での取り組みについては、LINE WORKSのHPに活用事例として紹介されていますので、【導入事例】北見赤十字病院 – LINE WORKS (line-works.com) を参照いただけますと幸いです。
質問:職場での働きやすさ、雰囲気をよくするために先生ご自身が心がけていることがありましたら教えてください。
実際に働きやすいか、雰囲気がいいかどうかは全く自信がありませんが、当院の責務を果たしつつ、スタッフ全員のワークライフ(ライフワーク)バランスがなんとか維持できないかを考えています。スタッフは皆頑張ってくれていますが、残念ながら給料を2倍にはしてあげられません。お金≒時間なので、管理者としては、如何に時間(自由な時間・休日)をスタッフに提供できるか、そのために如何にみんなで助け合って業務を遂行できるか、ということに腐心していますがなかなか難しい課題です。
質問:消化器内科部長として、若手医師の指導にはどのように取り組んでいらっしゃいますか 。
当科には、大学院を卒業した(あるいは卒業に準ずる)医師が6名います。これらの医師を「上級医」と規定して、自分の学んできた分野のリーダーとして科全体のマネジメントを依頼しています。年齢関係なく、各分野のリーダーの指導に従い、全員が働くことで、科全体の診療レベル向上を目指しています。 一人で診れる患者には限りがあります。地方病院では各分野の専門医を3名以上そろえることは難しいです。上級医が自分で診るのは簡単だと思いますが、自分で全部診てしまうと、「不在」になれません。「指導医として如何にスタッフ(医師)を指導して、より多くの患者により良い医療を24時間体制で提供できるようにするか」というマネジメントは、自分の時間を生み出すためにも必要ですし、各上級医が次のステージで専門分野の指導医としてキャリアアップするために必要だと思います。専攻医にとっては、全ての分野を各分野の指導医に相談しつつ満遍なく担当するので、消化器内科医、内視鏡医としての土台が形成され、今後の専門分野選択・キャリア形成の基盤ができます。
このような体制で業務を進めるためには、実務を担当するスタッフ(結果的には全員)はもちろん大変ですが、現場のリーダーとして、細かい仕組みづくりと、患者の振り分けをはじめとする業務管理を担当してくれている第二部長の役割がとても重要で大変です。第二部長をはじめとして、それぞれの立場で役割を認識して実践してくれているスタッフ全員に感謝と敬意を表します。
質問:今後貴院でさらに取り組みたい課題などがあれば教えてください
働き方改革は、突き詰めれば、業務そのものを削減するか、業務にあたる人員を増やすかのどちらかをしないと実現されません。手っ取り早い業務削減は診療を断って患者を減らすことです。もちろん逆紹介などは進めていますが、当院の役割上、診療を断ることは簡単なことではありません。業務改善やDX推進、多職種協働などによる業務削減に今後も取り組んで、その過程である業務を標準化することにより医療の質向上を進めていきたいと考えています。一方で、患者を減らせないなら、働く人を増やすしかありません。当院は医師の絶対数が少ないので、医師をいかに増やすかが課題です。もちろん医師に限らず当院で働いてくれる医療人を増やすことが課題です。
業務改善をして、やるべきことを効率よく高いレベルで実行できる組織にしたいと思っています。一緒に働いてくれる人を増やして、全体の「ゆとり」を生み出し、国内外の短期留学や研修、学術研究への参画、長期(2週間以上)休暇取得などを進めたいと考えています。
すぐに職場環境を変えていくことは難しいと思いますが、どのようなことから変えていくことがいいのか、北海道支部現場の医師へのアドバイスをお願いいたします。
私どもよりも働き方改革を進められている先生方、ご施設がおられると思いますので、アドバイスなどできる立場にはありませんが、最近とても気になっていることがあります。消化器外科医の問題ももちろんありますが、内科医の問題です。全国的には内科専攻医は減っていませんが、北海道では内科を専攻する医師が減っています。すなわち消化器内科、内視鏡医を目指す医師が減っているということです。自分たちがよしとしてやっていること、やってきたことが後輩たちには、進むべき道として選ばれていない、ということはとても寂しいことだと感じています。「どのようなことから変えていくことがいいのか」ということで言いますと、結局、「他人は変えられない」ので、「自分を変える」しかないと思っています。自分の考え方や行動は変えられます。同様に、管理者は、「他の部署・部門はなかなか変えられない」ですが、管理責任範囲の「自分の部署・部門」は変えられるかもしれません。逆に、管理者の考え方や行動が変わらないとその部署・部門はいつまでも変わらない、ということが言えます。管理されている立場(部下)では所属組織全体は変えられません。
言うは易し、行うは難しです。私どもも課題しかありませんが、自分がこれまで働いてきた過去よりも、もっと楽しく皆が働ける未来を目標に、自分を、そして自らが担当する組織を変えていければいいなと思っています。
今回はこのような機会を頂きましてありがとうございます。今後とも北海道支部の皆様のご指導、ご鞭撻、お力添えをどうぞよろしくお願いいたします。