慶応義塾大学で活躍中の石川医師へインタビュー/石川麻倫

慶應義塾大学 予防医療センター 特任助教 石川麻倫

 

質問:内視鏡専門医と病理専門医の両方を取得されている医師は少ないと思いますが、病理と内視鏡の両方を志したきっかけは何ですか。

実は、学生時代、私はずっと外科医を目指していまして。当時、「良い外科医になるには、病理がわかる必要があるんだよ」と外科の先生に言われたのをきっかけに、腫瘍病理学教室に出入りして病理の勉強を始めました。その後、初期研修中に内視鏡に出会い、自分で見つけて治療までできるなんて、こんなに面白いものはない!と自身の進路を変更し、消化器内科医となる道を選びました。ですが、消化器内科医でも病理がわかった方が良いよなー、博士課程は病理で取ろうかなー、と考えていました。初期研修後、私は北大消化器内科に入局しましたが、大学院は腫瘍病理学教室に進み、そこで胃癌の遺伝子プロファイリングの研究や (消化器疾患に限定せずに)病理診断や剖検業務に従事しました。病理専門医を取得した理由は、せっかく病理の勉強をしたから何か形に残したい、可能なうちに今後の自分の働き方の選択肢を増やしておいても良いかも、と思ったからです。

大学院卒業時、今後の進路について考えましたが、消化器内科 (内視鏡)と病理と両方を経験し、やっぱり内視鏡診断や治療ができるようになりたいと思った私は、北海道大学病院の光学医療診療部で内視鏡業務に従事しました。内視鏡像から組織像をイメージしたり、病理報告書に書いてある内容を理解できたり、内視鏡像と病理報告書のコメントからイメージが異なった場合に自分の目でプレパラートを確認したり、と、病理診断業務を経験したおかげで内視鏡業務領域でもできることが増え、病変に対する理解が深まったと感じています。

 

 

質問:これまでのキャリア選択の場面において、悩んだことがありましたら教えてください。

初期研修時に、もともと希望していた外科に進むか、それとも出会ってしまった内視鏡 (消化器内科)に進むか、悩みました。また、大学院修了時に、腫瘍病理学教室にもう少し残って研究をするか、それとも内視鏡医として臨床に戻るか、悩みました。さらに、北海道大学病院に内視鏡医として勤務中に色々と研究テーマについて考えることが多く、このまま今の環境で自分がやってみたいと思うことができる可能性があるのか、悩みました。なんか、数年おきに悩んでいる気がします(笑)

 

 

質問:現在は慶應義塾大学の腫瘍センターでご活躍されているとのことですが、現在の仕事内容について教えてください

私の今の所属は、がんゲノム医療ユニットです。私は臨床チームに属しており、外来業務やclinical tumor board (ゲノムプロファイルに基づいた推奨治療の提案)を主に行っています。私が担当する外来は保険診療下で行うがん遺伝子パネル検査であり、標準治療終了もしくは終了見込みの悪性固形腫瘍の患者さんを対象にしています。また、研究では、消化器腫瘍にゲノム検査の有用性や、内視鏡領域でゲノム検査をうまく活用できないか、などに取り組んでいます。

 

 

質問:北海道から異なる施設に異動し、職場の雰囲気や仕事のしやすさなどはいかがですか

幸いなことに、今のユニットの教授は学生時代からお世話になっていた北大腫瘍病理学教室の先生であり、また北大消化器内科の化学療法グループであった先輩や大学院時代にお世話になった先輩もいらっしゃり、完全なる孤独を感じることは全くありませんでした。コロナ禍でもあり、歓迎会や飲み会などを通しての他のユニットメンバーとの交流の機会は得られませんでしたが、皆さん優しく、すぐに打ち解けることができました。ですが、やはり北海道にいた時には感じたことがなかった外様感(笑)や、知り合いがほとんどいない心細さはありました。と同時に、全くしがらみが無いことの自由さや解放感も初めて経験しました。今はゆっくり少しずつ院内外に繋がりを広げていっている最中です。北海道にそのまま残っていたら経験しなかったであろう苦労もありましたが、それも含めて、私は今の生活を楽しんでいます。

 

 

質問:毎日の診療、学会発表や論文の執筆などでお忙しいと思いますが、ワークライフバランスの工夫を教えてください

北海道時代の私は、起きている時間=仕事、できるうちにやる、やるべきことが終わらないうちは寝ないし休まない、というスタイルでしたが、長い目で見たら、これって本当に良くなかったなと大変反省しています。もちろん、地域の特性上、このスタイルが求められていたり、患者さんファーストとしていた結果ではありますが、でも、自分の健康のためには長く続けられるスタイルではなかったと思います。。。今は、自分の働き方を自分で調整しており、起きている時間=仕事+仕事以外、として、健康を目標に日々生きています(笑)
仕事はもちろん北海道時代と同じように誠実さをモットーに取り組んでいますが、仕事以外の時間をしっかり確保して、ジム・ストレッチ・散歩・旅行と自分の心身の健康に繋がる行動もとるようにしています。結果として徐々に作業効率も上昇し、さらにワークライフバランスがとりやすくなっている気がしています。

 

質問:今後の目標や展望などはありますでしょうか

臨床、病理、研究、内視鏡、ゲノム、がん…と、色々学んで経験した今、実は私、予防医療に興味を持ち始めています(笑)
これまではずっと、がんを中心とした病気の診療や研究に多くの時間を費やし取り組んできましたが、東京に出てきて働き方や環境が変わったことをきっかけに、これからは病気を考えることと同じくらい健康についても考えた方が良いのではないか、と思うようになりました。まだ現時点で明言できるような目標や展望は実はなく (すみません)、言できるとしたら「今後も内視鏡はやり続けていく」ということくらいです(笑) 今後、また自分が何に興味を持つかわかりませんが、内視鏡を持ちながら、どんどん挑戦してみたいと思っています。

 

最後にこれからキャリア形成をしていく若手医師に対して一言お願いします!

やりたいと思ったこと、興味や関心をもったことに出会った時は、ぜひ挑戦してもらいたいと思います。昨今よく「人生100年時代」と耳にしますが、いつかいつかと先送りにしていたら、あっという間に時間もチャンスも流れていってしまうからです。これは、仕事もそうですが、仕事以外でもそうで。医師としての時間だけではなく全部ひっくるめての自分の人生なので、どうせなら楽しく過ごした方が良いと私は思っています。何より健康第一で頑張ってください!